第9章 羨望
先王が生きていた頃。ルークは兄、ビショップが神官として城内にいることから、よく城内に入りびたっていた。また、ルークはその、人を引きつける魅力のおかげで城下には多くの知人がいた。
皆、ルークが知っている人物は口をそろえてこう言っていた。
「王は立派だ」
「この王なら、この国が安心して任せられる」
王の誕生日は国中が喜び、祭りを催し、国中が華やかな雰囲気だった。
王が死んだ日は国中の誰もが嘆き、悲しんだ。
王は誰からも、『愛され』ていた。
俺が一番欲しいものをいっぱい持っていた。
…王になったら、『愛され』る…?
「けど、王にならなくても、『愛され』るわ」
ルークの心を見透かして、マリエが言った。
「そこにあった。でも、あなたは気付いていなかった…ビショップの、弟を想う気持ち」
「俺…は」
そう言って、ルークはその場にくずおれた。
「近いから、余計に分からないこともある。でも分かったのならいいんじゃないのか?」
そう言ったのはシーディだった。
「早くお兄さんの傷を塞いであげて」
ティエルが続ける。
「まだ、間に合うぜ」
レイガーが先を促す。
「ほら」
マリエがルークの背中を押した。
「兄さん…ごめん…っ、俺…」
言葉が詰まる。けれど、ビショップは、
「私は…大丈夫だから。これくらいじゃ、…死なない…よ」
そう言って、精一杯、笑った。
呪文の詠唱。『蒼の月』の法術が発動する。
柔らかな光があたりを包む。
その昔、世界がまだ、混沌から秩序になったばかりの頃、双子の神がおりました。
二人は大変仲が良く、いつも一緒でしたが、ある時、小さなすれ違いが二人の間に大きな溝を作ってしまいました。
その後、二人は天に昇り、仲直りすることもありませんでした。
幾千年経った今でも、決して二つの月は同じ夜空に見えることはないのです…。
でも、二つの月の法術が使える人物がいるように、二つの月もいつか、同じ夜空に見えることもあるかもしれない。
そう、キルスティーンは感じた。
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