第10章 この空の下で
「本当にお世話になりました」
「いえ。こちらこそ。こんなにお礼をいただいてしまって」
「また、いらっしゃってくださいね。お待ちしています」
マリエ女王は、急に大人びた感じだった。まだ若いが、力はあるし、優秀な二人の大臣がついているから、人が反発することもないだろう。
「次に来たときは一緒に、護衛とかじゃなくて、お買い物に行きたいですね」
ティエルがマリエに微笑みかけた。マリエもそれに応じる。
レイガーとティエルがマリエと会話している、その少し後ろでは、
「もう、行くのか」
キルスティーンがシーディにいつもと変わらぬ口調で言った。でも、その瑠璃色の瞳には少し、寂しさが浮かんでいた。
「次に来たときは、また稽古の相手をしてください。キルスティーンさん」
シーディが目を細める。キルスティーンが何かを言おうとして、口をつぐんだ。
「何です?」
キルスティーンはしばしの逡巡の後、まっすぐな瞳でシーディを見、言った。
「『キティ』でいい」
「では、私も『シーディ』と。シルディオンでは呼びにくいでしょう?」
「お互い、長い名前だな」
そう言って、キルスティーンがくすっ、と笑った。
「では。また」
二人は固い握手を交わした。
フィアラルをでて、街道を歩いてしばらく。
「レイガー。何か言いたいことがあるんじゃないのか?」
レイガーは、シーディのその突然のセリフに思いっきりうろたえた。
「え、えぇえ、何で分かるんだよっ!」
「顔に書いてあるぞ。マリエ王女みたいにはいかなくても、お前の考えてることくらい分かるんだよ。」
しばしの沈黙。必死に言葉を選ぶレイガー。
「俺、さ。行きたいところがあるんだ。この前、城の図書室で、鳥人族に関する資料を見つけて…ナウラって谷に、今でも鳥人族がいるって、それで…その…つまり、ティエルと一緒に旅がしたいんだ」
ティエルが心配そうにこちらを見る。
分かれ道にたどり着いた。
「それなら、この、分かれ道を右に行くんだ。俺も、行きたいところがあってな。だけど俺は左、なんだ。…ここで、分かれるんだ」
シーディは優しい笑みをうかべながら振り返った。
「だが、『さよなら』じゃない。『また会おう』だ」
「…!ああ!」
この広い、木漏れ日の下に広がる理想郷。
でもきっと、また会える。同じ空の下にいる限り…。
〜Fin〜
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