第7章 雨の日

 次の日、外は雨が降っていて、重たい雲が空いっぱいに広がっていた。
 しかし、元気になったマリエと、キルスティーンの二人に城を案内してもらったので、三人は全然退屈だと思わなかった。
 色々な部屋を見せてもらったあと、図書室にもやってきた。
 三人は、思い思いにしばらく本を読んでいた。
「ルーン文字に関する本を見つけたんだが、ティエル、読むか?」
シーディはそう言って、ティエルにその本を手渡した。
「ありがとう、シーディ」
ティエルはぱらぱらとページをめくりその一節に目を留めた。
「あ、ルーン魔法ってこういう使い方も出来るんだ」
「何見つけたの?ティエル?」
ティエルの独り言を聞きつけて、レイガーが後ろからひょい、とのぞき込む。
「今、やってあげるね。レイガー、ちょっとそのダガー貸して」
レイガーがダガーを手渡すと、ティエルは、柄のすぐ下の刀身を指でなぞった。
「『シグル』!」
言葉と共に、先ほどなぞった部分が、瞬間、青白い光を放ち、消えた。
「はい。これで、レイガーのダガーは『太陽』の力を持ったはずだよ」
「なるほど。ルーンを武具に刻むことで、その力を付与するのか」
 シーディが頷く。
「私のにもやってくれないか?」
キルスティーンが自らの剣を指し示した。
「いいですよ。どんな力を込めます?」
「そうだな…『守り』の力とか」
 大切な誰かと、自分で自分を守れる力、キルスティーンはそれが欲しかった。
「はい。では『エオルー』のルーンで…きゃあぁっ!」
 ティエルが、キルスティーンの剣の、あまりの重さにバランスを崩して、床にへたり込んだ。
「す、すまない」
 キルスティーンが慌てて、ティエルに手を差し出す。
「こんなに重い剣を使っているんですか…。すごいなぁ…」
 ティエルが立ち上がりながら、ため息混じりに言う。
「慣れると、重いとも思わなくなるさ」
 ティエルは気を取り直して、先程と同じ手順を踏み、キルスティーンの剣にルーンを刻み込んだ。
「…不思議な感じがする」
 魔力の付与された、剣を持ち上げ、そっとつぶやくキルスティーン。
 と、その時。
「ここでしたか。キルスティーン様。シャート様から、お手紙を預かっているのですが…なんでもお急ぎだとか…」
「…シャートから…?」
シャート、とはこの城の軍事を司っている人物である。

 −筆無精な彼が、手紙で知らせなければならないような用事、しかも急用とは何だろう?

 キルスティーンはそう思って、怪訝そうな顔をしながら、召使いが差し出した封筒を受け取った。
 そして、こちらに向き直り、言った。
「これを、部屋に戻って、読んでこようと思うんだが、シルディオン、レイガー、ティエル。マリエ様を頼んでいても、いいか?」
「ああ、構いませんよ」
シーディのその言葉に、キルスティーンは足早に図書室を出ていった。

 引き出しから、ペーパーナイフを出し、封を切る。
 …手紙の主は、シャートではなかった。
「ルーク…!!」

『今晩十二時、北地区の教会跡地で待っています。秘密について話をしましょう』

 −秘密…?
 胸騒ぎがした。
 行かなくてはならない。何故だかそんな気がした。

 時計の鐘が12時を告げる。
 キルスティーンはシーディ達にマリエを任せると、剣を片手に城を出た。

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