南極ぺんぎん物語 〜ぺんぎん帝国のヤボウ〜『完全版』


あるうららかな冬の日、あでりーぺんぎんのぺん太は、いつものように日光浴としゃれ込んでいました。黒のサングラス(UVカット)がキラリと 光ります。
「ふーっ、今日も絶好のブリザードびよりだぜぃ」
吹きすさぶ吹雪の中、ぺん太はデッキチェアに寝そべり、南蛮渡来のくりぃむそぅだをグイと飲み干します。かたわらにはどこぞから流れ着いた ビーチパラソルなんぞがあります。季節感ぶっちぎりのぺん太です。
「お〜い、ぺん太ど〜ん」
向こうからはらすべりで疾駆してくるのは朋友のぺん吉です。摩擦係数の低さを見事に利用した伝統の滑りです。
「ぺん太どん、大変でごわす!」
なぜか北の方の島国の方言を話すぺん吉は、すこし興奮気味です。
「どうしたんだ、ぺん吉どん」
すべりすぎでハイテンションのぺん吉から、これからこうていぺんぎんの演説が始まることを聞き出しました。ぺん太はデッキチェアの下から、 今をときめく「とらんじすたらじお」を取り出しました。
『諸君!空を見よ!我らの頭上に開く大穴を!いまやオゾンホールの脅威はグラサンでは防げぬほどになっている!今こそ時である!私は、ここに 「人類ぺんぎん計画」の実行を宣言する!うぬぼれた人類に鉄槌を下すのだ!立てよぺんぎん!』


演説の放送後、南極中のぺんぎんは「えでん・おぶ・ぺんぎん」に集結し始めました。ぺん太とぺん吉もはらすべりで向かいます。はらすべりで 疾走するぺんぎんたち、その数、数十万。
黒と白の群ぺんぎんの前に、数メートルはあろうかという、こうていぺんぎんのホログラフが現れました。ぺんぎん帝国の技術は優秀です。
『我が同志よ、よく集まってくれた!みよ、これこそが人類ぺんぎん計画の切り札だあぁぁぁ!ミュージックスタートゥ!』
…ちゃーんちゃーんちゃんちゃんちゃんちゃんちゃーん…
どこぞで聞いたようなBGMが流れ、こうていぺんぎんの後ろから妖しげなハコが出てきました。こうていぺんぎんの羽がさっとあがると、ハコの壁 がぱたんと倒れ、中から巨大なぺんぎんが出てきました。背中は紫、おなかは白にペイントされています。どこか某特殊機関の生体兵器に似ていま す。背中からは用途不明のケーブルまで伸びています。
『諸君!これがEPA(Extream Penguin Armament・特殊ぺんぎん兵器)だあぁぁぁ!これを尖兵とし、人間どもに鉄槌を下し、人類ぺんぎん計画を 完遂するのだ!まずは手近のオーストラリアだ!ジーク・ぺんぎん!』
―おおお!ジーク・ぺんぎん、ジーク・ぺんぎん、ジーク・ぺんぎん…―
ぺんぎんたちの叫びは長く、長く続きました。
…その夜、流氷に偽装したぺんぎん先遣隊が出発しました。でも、ぺんぎんたちは知りませんでした。オーストラリアには流氷は来ないことを …。


「ま、マジっスかぁ?」
ぺん作は思わず大声を上げてしまいました。
「うむ。このパラシュートで降下するのだ」
隊長ぺんぎんがはねぐみをしてうなずきます。
 ぺんぎん帝国が誇る高速飛行艇「ぺんぎんの星一号」。ぺんぎんの姿を模して造られたそれは、オーストラリア上空数百メートルを飛んでいまし た。国境警備隊に引っ掛からなかったのがうそみたいです。ぺん作はその中にいました。
ぺん作が驚くのも無理はありません。隊長ぺんぎんが渡したパラシュートは、はねを引っ掛けるだけのシンプルなものでした。
(ホンマ、こんなんで降りれるんかいな…?)
ぺん作の愛国心が揺らぎます。そうこうしている間に、「ぺんぎんの星一号」のおなかが開き、有望な若ぺんぎんたちが次々と飛び降りていきま す。
「おらぁ!てめぇも逝くんだよ!」
隊長ぺんぎんが渋るぺん作をけり飛ばします。
「てめぇ、覚えてやがれえぇぇぇぇぇ〜!」
奈落の底に落ちながら、ぺん作は隊長ぺんぎんを呪いました。
暗雲がぺん作を吸いこんで、見えなくなりました。


「いやあ、今日もいい天気だネ。ジェイソン」
「そうだネ、ジャッキー」
荒野のど真ん中。何とも不吉な名前のカンガルー二匹が、エレガントなティータイムを満喫していました。
オーストラリア大陸は、近年、カンガルー共和国に乗っ取られたばかりです。ぺんぎん帝国に攻撃される理屈はないのですが、ぺんぎんたちはそ んなことk気にしません。
「おや、あれは何だろうネ、ジェイソン」
「そうだネ、何だろうネ。ジャッキー」
ジャッキーが指さす空には、無数のぺんぎんが身投げ…いえ、降下していました。
「うん、あれはぺんぎんだネ。ジェイソン」
「そうみたいだネ、ジャッキー。でも空飛ぶペンギンとは珍しいネ」
カンガルーには危機感なんぞありません。無理もありません。身投げぺんぎんたちはパラシュートにはねを引っ掛け、ふらふらと落ちてくるので す。バランスの悪さがたたり、「ニュートンのばかぁ〜」と叫ぶやつもいます。突風に流されて変な方向に飛ばされるぺんぎん。ちゃんと着地する ぺんぎんもいますが、少数です。こんな状況で、危機感を持てというのが無理なようです。
はるか上空、ぺん作をけり飛ばしたあの隊長ぺんぎんも空の人になっていました。
「総員、東を見ろ!あれがシドニーの灯だ!」
張りつめた糸でんわネットワークを通し、隊長ぺんぎんが言います。まるで大西洋を渡ったかのようです。
『うう、長かったッス!でも、今昼間ッスけど…』
「細かいことは気にするな。しかし、こう空にいるというのも、第二次大戦を思い出していいもんだなぁ」
『自分は星になりかけましたが…』
部下ぺんぎんのぼやきもどこいく空、隊長ぺんぎんは遠い目です。
「俺も昔はよう、西へ東へ、大空を自分のモンにしたもんだ…」
『いつの話ですか…おおうっ?』
お約束の突風がぺんぎんたちを襲います。
『た、たいちょ〜!』
「ええい、落ち着け!こういうときは冷静になるために…」
『なるために?』
「…今週の乙女座の運勢は、六日はラッキー、素敵な出会いが待っている、と」
『あほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ>』
げしげしっ>
少女趣味な占い本を取り出した隊長ぺんぎんに、部下ぺんぎんたちのケリが飛びます。
「おひょおおおおおおおお〜>」
かくして、ぺんぎん降下部隊はその大半を流されてしまいました。


そのころ、流氷に偽装した揚陸部隊は、海流に流され流され、ほっきょくぐまに襲われていました。


わりとあっさりめに失敗したオーストラリア攻略作戦をアバウトに反省したこうていぺんぎんは、ついにEPA(Exciting Penguin Armament・わ くわくぺんぎん兵器)の投入を決心しました。パイロットは抽選でもれなく決まります。
「と、ゆーわけで、きみがEPAのパイロットだ」
「なんでやねん!」
足かせ、はねかせをされてもがいているのは、あのぺん太です。運良く(悪く)抽選にクリティカルヒットしたぺん太は、ぺんぎん帝国諜報部に 拉致られていました。先遣隊の醜態により、ぺんぎん帝国軍の評判はがた落ちの今、進んでEPAに乗ろうという勇士はいません。ぺん太も例にも れず、しつこくイヤイヤをします。
「ふっふっふっ。これを見てもまだ拒むかなっ?」
…ちゃーんちゃーんちゃんちゃんちゃんちゃんちゃーん…
「こ、これは…」
例のメロディと共にあらわれたEPAに、ぺん太は驚愕しました。
「ふっ…これこそが何の脈絡もなく改造してみた、EPA改式だぁぁぁぁぁ!」
「それはええわ。でもな…なんで二頭身やねん!」
そう。EPA改式には、六頭身の初号機の面影はありません。水族館で売っていそうなデザインです。
「何でこんなデザインにしたっ?」
「ふっ…決まっておろうっ!こっちのほうがウケるからさっ!」
誇らしげに言う諜報ぺんぎん。祖国の存亡なんて知ったこっちゃありません、って顔です。
そうこうしているうちに、ぺん太はEPA改式に放り込まれました。中は結構適当なつくりです。
『突然だが、ページの都合で早速出撃だ!』
「は?何を言って…」
『そ〜れ、発射〜』
諜報ペンギンの声はやたらと嬉しそうです。EPA改式はやたらでかい板の端に乗せられました。板をささえるのは真ん中の丸太(?)です。そ う、“超”巨大シーソーです。向こう側では、群ぺんぎんがリフトに乗っています。さすがのぺん太も、何が起きるかわかったようです。
『とぉー!』
郡ぺんぎんが一斉に飛び降ります。そのさまはキ○ガイの集団自殺のやうです。
放物線を描いて、大空を自分のものにするEPA。物理法則って、こういうときだけ正直です。
『EPA前方、氷山接近!』
『およっ?弾道計算ミスったぁ>』
レッドランプ点滅しまくりのコクピットに、ヤバイ会話が流れます。通信機器って、ホントよけいなことしか伝えません。
『回避運動、緊急!』
『ダメです!間に合いません!激突、十秒前!』
『…………………………………………………………………………………………ま、いっか』
EPAメインモニターに映る氷山が、どんどん大きくなります。
ぺん太の脳裏に、様々なことがよぎりました。
(ああ、こんなことなら昨日の夕食の残り、食べときゃよかった。あ。はらすべりレースで優勝したときの賞品生魚一年分、まだちょっとしか食べ てない。とっておきのニシン、一口も食べてないのに…。おととい借りたビデオも返してないし…きよみさん(サボテン)の世話、誰がするんだよ う。せっかく花が咲きかけてたのに…。ん、部屋の電気消したっけ?よく忘れるんだよね〜。地球に優しく、えこのみ〜♪)
遺言を言うのにも、集中力が必要なようです。よけいなことを考えているうちに、お時間となりました。
メインモニタが四散し、衝撃がEPAを襲いました。ぺん太の視界が真っ白になり、そして…



「うひょひょひょひょひょー?」
珍妙な悲鳴を上げ、ぺん太はでっきちぇあからずり落ちました。ブリザードがくちばしをぴしぴしたたきます。
「ゆ…夢か…」
ひっぱったあげくの夢オチ。ありきたりな展開に、ぺん太はほっとしたようで、ちょっぴり残念な気持ちです。
ずり落ちたグラサンをなおし、でっきちぇあに寝そべります。そのとき、こちらに滑走してくるぺん影が見えました。
「お〜い、ぺん太どーん」
「おお、ぺん吉どん」
ぺん太はくりぃむそうだを持つひれを、高く上げました―

Endless

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